研究成果

研究成果

研究成果 平成26年度

本研究計画では,遺伝学的,生化学的,および構造生物学的アプローチを駆使して,マウス由来の新規低分子RNAの解析を進めた.

(1)低分子RNA候補の二次構造解析とクラスタリング
 マウスの脳に由来するRNAおよびマウスのES細胞に由来するRNAについて次世代シーケンサーによる配列解析を行うことによって得られた配列データを用い,二次構造に基づくクラスタリングを進めている.脳については約1億配列,ES細胞については約6千億配列が得られている.脳に由来するデータについては,解析をほぼ完了し,16個の新規低分子RNA候補を見出した(発表論文1).なお,これらの新規RNAをMsncR(mouse structured non-coding RNAに由来)と呼ぶこととした.
 また,マウスES細胞から得られた約6千億配列およびES細胞から神経細胞に分化する過程でのさまざまな段階の細胞から得られたそれぞれ約1千万配列についても解析を進めており,新規低分子RNAの候補を数個見出した.

(2)低分子RNA候補の立体構造形成スクリーニング
 多数の低分子RNA候補について,その立体構造形成を迅速に評価するための,NMR試料管内転写法を開発し,構造既知のRNAについて適用することによって,その有用性を実証した.本手法をINTT法(in NMR tube transcriptionに由来)と命名した(発表論文2).この手法をプロジェクトで見出した低分子RNA候補に適用し,安定な立体構造を形成するRNAを探索している.

(3)配列解析
 マウスES細胞が神経細胞に分化する過程のさまざまな段階の細胞から低分子RNAを抽出し,その配列解析を進めた.

(4)マイクロアレイ解析
 マウスゲノム上で全てのセンス—アンチセンス遺伝子座(SAT遺伝子鎖)においてエクソン同士の重なりを考慮して作製したマイクロアレイを用い、マウス脳由来の低分子RNAをターゲットとして配列解析を行った。現在、ノーザン解析での検証を行っている。

(5)ノーザン解析
 次世代シーケンサーによる配列解析等によって見出した新規低分子RNA候補の発現量等を確認するため,マウスのさまざまな組織からRNAを抽出し,ノーザン解析を行い,3つのRNAについて強い発現,4つのRNAについて弱い発現を示す結果を得た.このうち,暫定的にS4-11と命名したRNAについては得られているcDNA情報とノーザン解析の結果に矛盾があったため,さらなる解析を行った。その結果,このRNAはいくつかの臓器で30 nt程度の短い断片として存在することが示唆された.

(6)転写単位の同定
 non-RIによるプライマーエクステンション法を確立し,ノーザン解析でシグナルを得たRNAのうち4種類に対して5’末端の配列を決定するための実験を行った.残り3種類に関してはノーザン解析で得られたシグナルがかなり弱かったので解析対象から除外した.その結果,末端を特定できたものは1種類のみであった.

(7)低分子RNAに対する結合因子や複合体の精製
 新規低分子RNA候補のうち,ノーザン解析で発現が確認でき,その末端が決定できたものを対象として,複合体解析を行うことを計画したが,上述(5),(6)の通り,最終的な対象候補は1種類に絞られた.しかし,このRNAについては,後に反復配列由来のものであることが判明したため,これも解析の対象から除外した.
 なお,これらの結果を受けて当初計画を修正し,上述のS4-11およびそれに由来する可能性のある短いRNAについて,それぞれの生合成経路および機能を明らかにする方向での研究の展開を検討している.

(8)立体構造解析
 これまでに見出した新規RNA候補のひとつであるMsncR-11に着目し,立体構造解析を進めた.MsncR-11は,ミトコンドリアtRNA遺伝子の裏鎖に相当するRNAであり,ミトコンドリアmRNAのプロセシングに関与している可能性がある.NMR法による解析を行ったところ,MsncR-11は,tRNAのアクセプタステムとTステムに相当する二次構造を形成していることが示唆され,現在論文作成中である.
 なお,2014年6月に千葉工業大学において公開シンポジウム「Structured ncRNA研究への前哨」を実施し,研究成果を紹介するとともに,今後の研究の展開について議論した.さらに,2014年11月の日本分子生物学会年会において,ワークショップ「機能性RNA分子研究の新展開」を実施し,これまでの成果を発表した.


発表論文

  • Okui, S., Ushida, C., Kiyosawa, H., and Kawai, G., Sequence and structure analysis of a mirror tRNA located upstream of the cytochrome oxidase I mRNA in mouse mitochondria, J. Biochem. 159, 341-350 (2016).
  • Kiyosawa, H., Okumura, A., Okui, S., Ushida, C., and Kawai, G., Secondary structure-based analysis of mouse brain small RNA sequences obtained by using next-generation sequencing, Genomics 106, 122-128 (2015).
    doi: 10.1016/j.ygeno.2015.05.003
  • Okui, S. and Kawai, G., In NMR tube transcription for rapid screening of RNA conformation, Nucleosides, Nucleotides, and Nucleic Acids 34, 103-113 (2015).
    doi: 10.1080/15257770.2014.964412

学会発表

  • 山��大輝,奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,マウスの脳から得られた新規低分子RNA候補の構造解析,BMB2015,2015年12月2日,神戸国際展示場
  • 小倉聡一郎,奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,センス−アンチセンス転写領域から見出されたマウス低分子RNAの構造形成領域の推定と構造解析,BMB2015,2015年12月2日,神戸国際展示場
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,マウスのミトコンドリアmRNAのプロセシングに関与するmirror tRNAの二次構造の解析,第54回NMR討論会,2015年11月6日,千葉工業大学
  • 清澤秀孔,奥居沙弥,牛田千里,河合剛太,マウス細胞内で発現している低分子RNAとその構造解析,第37回日本分子生物学会年会,2014年11月25日,パシフィコ横浜
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,RNA構造スクリーニングのためのNMR試験管内転写法の検証,第16回日本RNA学会年会,2014年7月23日-25日,ウインクあいち
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,マウスの脳から得られた新規低分子RNAの構造解析,第36回日本分子生物学会年会,2013年12月5日,神戸国際展示場
  • 奥居沙弥,鈴木穣,加藤英政,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,配列解析によって得られた低分子RNAのNMR構造解析,第15回日本RNA学会年会,2013年7月24日-26日,ひめぎんホール
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,マウス脳から発現する50-100残基RNAのクラスタリングと構造解析,第35回日本分子生物学会年会,2012年12月13日,福岡国際会議場
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,マウス由来の新規低分子RNAの構造的特徴の解析,第51回NMR討論会(日本核磁気共鳴学会年会),2012年11月8日-10日,ウインクあいち
  • 奥居沙弥,牛田千里,清澤秀孔,河合剛太,RNA構造スクリーニングのためのNMR試験管内転写法の開発,第14回日本RNA学会年会,2012年7月18日-20日,東北大学