ゲノム刷り込み遺伝子(細胞核内の2つの対立遺伝子のうち、母親由来もしくは父親由来のどちらか片方しか発現していない遺伝子)は哺乳動物で100-150個ほどが知られている。アンチセンス転写が比較的高頻度に見られるとの報告もあり、ゲノム刷り込みやその維持との関連が示唆されている。
ゲノム刷り込み遺伝子の多くはその刷り込み状態(片アレル発現)がどの組織でも維持されている場合が多いが、中には組織特異的な片アレル発現をする遺伝子も知られている。当研究室ではUbe3a遺伝子の神経細胞特異的なゲノム刷り込みに注目し、ES細胞を神経細胞にin vitroで分化させ、その過程で神経細胞特異的なゲノム刷り込みを再現することに成功した。また、片アレル発現が確立される時期にアンチセンスRNAの発現が急上昇することも確認した。
現在、アンチセンス転写とエピジェネティックなマークとの関連を調べている。
片アレル発現を解析するには染色体間に遺伝的な多型が必要であり、当研究室では日本産野生マウス由来近交系のMSM/Msと標準的な近交系C57BL/6との亜種間ハイブリッドES細胞を樹立し、研究を進めている。また、総合的な転写活動の観点からES細胞とiPS細胞の違い、特徴などの解析も行っている。