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研究室紹介

RNAとは何か?

  • RNA研究の歴史

1950年代後半,古典的な分子生物学では,DNAに記録された遺伝子情報が,mRNAにより転写され,タンパク質に翻訳される,いわゆるセントラルドグマの概念が主流であった. この分子機構が解明される事で,RNA(リボ核酸,ribonucleic acids)は,その機能や構造により,mRNA,rRNAおよびtRNAとして存在している事が発見された.

セントラルドグマ
セントラルドグマの概念
  • RNAの構造

mRNA(messenger RNA)はタンパク質に翻訳される塩基配列情報と構造を持ったRNAである. この特定のアミノ酸に対応する3塩基配列はコドンと呼ばれる. rRNA(ribosomal RNA)はリボソームを構成するRNAで,生体内でもっとも大量に存在する. tRNA(transfer RNA)はコドンを認識して,対応するアミノ酸を転移させるアダプター分子である.

RNAは遺伝子の発現において中心的な働きを持ち,それ以外の多くの生命活動はタンパク質によって営まれていると考えられてきた.

RNAの構造
左)RNAを構成する4種類の塩基, 右)4塩基からなる一本鎖RNA,
ホスホジエステル結合によってつながっている.
  • RNAスプライシング

1970年代,RNAのエクソンとイントロン構造が発見され,RNAスプライシングの制御機構に関する研究が盛んになる. エクソンはmRNAとなる部位(アミノ酸配列に翻訳される部位),対してイントロンは成熟したRNAから除去される部位の事を指す. この場合,スプライシングとはイントロンが除去されエクソンが再結合される過程の事である. RNAレベルでの遺伝情報の再構成により,多様なタンパク質を産生する機構の存在が解明された.

RNAスプライシング
RNAスプライシング
  • リボザイム

1980年代,触媒能を持つRNA(リボザイム)が発見された. リボザイムは核酸の切断や結合など,様々な化学反応を行うものが報告されている. これまで,タンパク質生合成系において受動的な役割をもつに過ぎなかったRNAが,タンパク質でできた酵素と同様に触媒能を持つ事がわかり,RNAに対する見方が一変した. RNAがタンパク質やDNAよりも先に生命を支える分子として機能していたというRNAワールド仮説が始まったのもこの頃である.

  • RNA研究の現在と今後の発展

1990年代後半から21世紀現在に至っても,古典的な分子生物学を覆すような様々な現象や機能が発見されている. RNAの高次構造が遺伝子発現を制御するリボスイッチ, わずか20残基程のRNA分子が遺伝子発現を制御するRNA干渉(RNAi), 数多くのマイクロRNA(miRNA), 染色体単位で発現量を制御するRNAであるroX RNA,等. そして特に,わが国主導で推進された相補的DNA(cDNA)プロジェクトの網羅的解析によって, タンパク質をコードしないnon-coding RNAや内在的なセンス-アンチセンスRNAが大量に存在することが明らかとなった.

以下の表は現在までに知られているRNAを,その長さで大まかに分類した一覧である(機能性Non-coding RNAより改変). ただし,tRNA および rRNA は除いてある.

Japanese English Abbreviation
50nt 以下
マイクロRNA microRNA miRNA
  small temporal RNA stRNA
siRNA small interfering RNA siRNA
  lin-4 RNA  
  let-7 RNA  
tncRNA tiny non-coding RNA tncRNA
50nt〜1000nt
SL RNA spliced leader RNA SL RNA
核小体内低分子RNA small nucleolar RNA snoRNA
核内低分子RNA small nuclear RNA snRNA
テロメラーゼRNA telomerase RNA  
  small Cajhal body-specific RNA scaRNA
  small cytoplasmic RNA scRNA
  transfer-messenger RNA tmRNA
  ribonuclease P RNA Rnase P RNA/M1 RNA
  BS190 RNA BS190 RNA
  BS203 RNA BS203 RNA
    VR-RNA
    RNA III
  signal recognition particle RNA SRP RNA/srpRNA
    DsrA RNA
    RprA RNA
    OxyS RNA
    CsrB RNA
    spot42
    RyhB RNA
1000nt以上
センス-アンチセンスRNA sense-antisense RNA SAT
mRNA型non-coding RNA mRNA-like non-coding RNA  
ナチュラル・アンチセンスRNA naturally occuring antisense transcripts  
    Xist RNA
    roX1/roX2 RNA
    SRA RNA
    TUG-1 RNA
    breft RNA
    Tsix RNA

RNAの新しい機能を発見する研究,構造と機能の研究の重要性は益々高まり,物理化学的,情報科学的な新しい研究手法の開発が急がれている. 今後もRNA研究に伴うの技術の発展により,現時点では想像もしないような新発見,新展開があるものと期待される.

  • 参考文献
  • 機能性Non-coding RNA 河合剛太、金井昭夫 編 クバプロ 2006