ゲノム科学研究室   
    I. 研究の概要
   哺乳動物の細胞の核内には母親から受け継いだ染色体と父親から受け継いだ染色体があり、それぞれに約2万個の遺伝子が載っています。ただし、この2万個の遺伝子はほとんどがタンパク質をコードする遺伝子であり、タンパク質をコードしない非コードRNA(ncRNA)をコードした遺伝子がその他にも数多く存在することが知られています。今までは転写されていないと思われていた染色体上の領域からも多くのncRNAが転写されることが明らかになってきました。

また、ヒト/マウスゲノム全配列が決定される以前は、アンチセンス転写、すなわち、ゲノム2本鎖DNAの同じ領域の両方の鎖から同時に転写されることは非常にまれな現象だと思われていましたが、現在では生物全体において普遍的で高頻度で起こる現象であると認識されています。

ゲノム科学研究室では主に、これらncRNA/アンチセンスRNAを対象として研究を行っています。    
                                                   
一方、哺乳動物では母親由来の染色体上の遺伝子と父親由来の染色体上の遺伝子の働きにも違いがあります。特に母親由来のみ、もしくは父親由来のみの遺伝子しか働かない現象を「ゲノム刷り込み」と呼び、これらの遺伝子が存在するゲノム領域にも注目しています(図1)。両親のどちらか片方の対立遺伝子しか発現しないため、「モノアレル発現」とも呼ばれます。「ゲノム刷り込み」タイプ以外のモノアレル発現も存在し、後述します。

「ゲノム刷り込み」には組織特異的にこの現象が見られる遺伝子も存在し、私たちは神経細胞特異的に観察される
「ゲノム刷り込み」遺伝子の解析を行っています。

時々刻々変化する発生中の遺伝子発現変化を解析するためのモデルとして、in vitroでES細胞(胚性幹細胞)を神経細胞へ分化させ、その過程で起こるさまざまな遺伝子発現変化やエピジェネティックな変化をゲノムレベルで解析しています。(図2)




その際、今まで注目されていなかったゲノム領域やncRNAを含めた新規遺伝子を解析しています。

母親由来の遺伝子と父親由来の遺伝子を区別する為には、2つの近交系マウスを掛け合わせたF1個体を用いています(図3)。
1つは標準的な実験室近交系マウスのC57BL/6(B6)、もう一つは日本産野生マウス由来近交系のMSM/Ms(MSM)です。
この2つのマウス間には約1%ものSNPs(一塩基多型)が存在するため、多くの遺伝子や転写産物を親由来で区別することができます。



                      
   
 
   
 
   
 
   
 
   
   
    
   
   
 
   
   
   
   
   
   
   
   
    II. その他の研究 
    1.ゲノム刷り込み以外のモノアレル発現の研究
ゲノム刷り込みでは母親由来、父親由来の常に決まった親由来の遺伝子のみが発現しますが、2つの近交系マウスを掛け合わせたF1個体では、親由来ではなくて、常にB6由来、もしくはMSM由来のみの遺伝子しか発現しなくなる現象が見られます。これは、もともとB6やMSMの親で発現していなかった訳ではなく、親では発現していた遺伝子が、こどもであるF1個体になってどちらかの親の遺伝子が発現しなくなる現象です。私たちは「亜種特異的なモノアレル発現」と呼んでいます。さまざまな原因が考えられますが、これらの遺伝子も研究対象としています。

2.iPS細胞を用いた研究
マウスの分化した細胞からiPS細胞を作製し、神経細胞へin vitroで分化させた時、ゲノム全体の発現をみるとES細胞から分化させた神経細胞と違う発現をするゲノム領域が観察されます。ES細胞とiPS細胞自体の発現も全く同じではありません。作製された神経細胞にとってどれだけ重要な違いであるかを見極めると共に、iPS細胞の品質管理という観点からもES細胞とiPS細胞の“エピジェネティック”な違いを考察する研究を進めています。

マウスで得られた知見をヒトiPS細胞の品質管理にも応用するため、ヒトiPS細胞を扱う研究室とも共同研究を行っています。

3.新規低分子RNAの研究
マウスにおいて、アンチセンス転写が見られる領域から比較的高頻度で低分子RNA(50-100nt程度)が検出されるため、新規な低分子RNA発見と共に、その機能解析へ向けて、生化学や構造生物学の分野の研究室と共同研究を進めています。

4.その他、考えられる研究分野
ゲノムレベルで遺伝子を解析していると思わず興味深い遺伝子に出会うこともあります。それらの遺伝子に特化して研究を進めることも可能です。

MSMマウスは日本産の野生マウス由来で、多くの野性的な特徴や疾患に対する抵抗性の遺伝子を有しているとも言われています。ゲノム解析からヒントを得て、MSMマウスを利用して遺伝学的な研究を進めることもできます
                             

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