研究テーマ

 

(1)アーキア(古細菌)とバクテリアの細胞膜脂質合成の研究

「細胞膜から生物の進化を探る」

 アーキアは,真核細胞成立の際の宿主と考えられている生物です。アーキアに好気性のバクテリアが細胞内共生することで真核細胞が誕生したと考えられています。アーキアとバクテリアの大きな違いの一つは,合成経路も化学構造も全く異なる細胞膜脂質から細胞ができているという点です。アーキアとバクテリアが分かれる前の原始的な生命体は,どちらの膜脂質をもっていたのでしょう?真核生物は,なぜアーキア型ではなくバクテリア型の膜脂質を受け継いだのでしょう?細胞膜は細胞が成立する上で不可欠な存在ですが,未解明の大きな謎が残されています。アーキアや好熱性バクテリアの脂質合成酵素や生合成経路の研究を通して,この謎の解明を目指しています。




(2)大腸菌のポリアミン代謝の研究

「微生物がどのように代謝経路を獲得したかを探る」

 わたしたちヒトは, 約40兆個もの細胞からできていますが, 大腸には, それ以上の数の微生物が棲んでおり,わたしたちが健康を維持する上で大きく関わっていると言われています。腸内の微生物は,ヒトが食べた物や2次的にできた代謝物を餌として生育します。ポリアミンは,ヒトから微生物まで,あらゆる細胞の増殖に重要な物質ですが,ヒトの腸内でもたくさん見られます。大腸菌は,ポリアミンを餌として利用できる代謝経路を持っています。他の微生物が餌にできないような物質を餌にできると,生存競争の中で生きて行くのにとても有利です。生物はこのような都合良い代謝経路を獲得することで進化を遂げてきたと考えられます。大腸菌のポリアミン代謝経路の研究を通して,どのように微生物が代謝経路を獲得するか明らかにすることを目指しています。




(3)身近な環境に棲む微生物の研究

「微生物が環境中で生き残ってきた仕組みを探る」

 生物は環境の変化から回避する仕組みをもっています。ストレス応答反応と呼ばれる現象です。微生物は生きて行く中で,餌のない飢餓状態や外環境の温度, 浸透圧,pH,酸素濃度の変化などは良く起こる事なので,その度に死んでしまっては生物が地球上でここまで繁栄することはなかったでしょう。環境変化に対して応答できる仕組みを作り上げ,それを次世代に残すことができた生き物だけが,現在地球上に見られる生物種として生き残っていると考えられます。そこで,身近な環境に棲む微生物の生存戦略を明らかにすることで,環境応答の仕組みを探っています。

 水回りのヌメリのもとであるバイオフィルムは,微生物が原因で形成されます。身近な環境中からバイオフィルムを形成する微生物を単離・同定し,その性質を明らかにする研究をしています。

 また,近縁な関係で表現型が異なる微生物どうしのゲノム情報を比較解析することで,環境応答に関わる細胞機能を明らかにする研究を行っています。



 この他にも, 微生物を実験材料とした研究テーマを行っています。興味のある方は, メールでお尋ねください。