平成9年度開始未来開拓学術研究推進事業研究プロジェクト

生命科学領域「生体分子の構造と機能調節」研究推進委員会

 

RNAの構造生物学 

Structural Biology of RNA

 (平成13年3月をもって終了しました.)

成果報告書(pdf, 3MB)

ミニシンポジウムプログラム(pdf)

プロジェクトリーダー 河合剛太 

           千葉工業大学 工学部 講師

 

「1.研究の目的」

 近年,生命活動のさまざまな局面においてRNAの関与・重要性が発見され,高次構造に基づくRNAの機能発現メカニズムの解明を主要テーマとする「RNAの構造生物学」が,生物学のみならず,医学,薬学,工学のさまざまな分野で極めて重要な課題として取り組まれています.例えば,エイズウイルスの遺伝子はRNAであり,その構造と機能について知ることは,エイズの治療につながります.また,生命のもっとも基本的な活動であるタンパク質の生合成においてもRNAは中心的な役割を担っており,これに関与するRNAについての研究は生命工学にとっても重要です.

 本プロジェクトでは,このような背景のもと,現在は不十分であると考えられるRNA立体構造解析の方法論において独自の展開をはかり,それを最大限に活用してRNA分子の「機能する姿」を明らかにすることをめざしています.

 現在の構造生物学の主要な手法は,NMR,X線結晶構造解析およびコンピュータです.本プロジェクトでは,そのなかでもNMRを中心に,X線結晶解析およびコンピュータシミュレーションとも連携しながら,さまざまな生命現象に関与するRNA分子およびRNA結合タンパク質とRNA分子の複合体についてその構造解析を進めています.

 

 

「2.研究の内容」

 本プロジェクトでは,RNA分子がとりうるコンホメーション空間を明らかにし,さらにその中のどのコンホメーションによって,あるいはどのようにコンホメーションを変えることによってその機能を発現しているかを解明することを中心の課題としています.このために,1)NMRおよび結晶解析のための効率的な試料調製手法の確立,2)NMRを中心とした効果的な方法論の開発,および,3)得られた情報にもとづく立体構造モデリング手法の開発を中心に研究を進めています.以下に現在進めているテーマのいくつかについて簡単に説明します.

 

(1) 病原性ウイルスにおけるRNAの構造生物学

 エイズウイルスに代表されるRNAウイルスの多くは,ウイルス粒子中でゲノムRNAが二量体化しています.この二量体化は,ウイルスゲノムの逆転写や翻訳などの制御にも関与していることが示唆されており,RNAウイルスのライフサイクルにおいて重要なステップの一つとなっています.そこで,この二量体化開始部位であるステム・ループ構造(SL1)について,その二量体化能,立体構造およびHIVタンパク質との相互作用などを解析することによって,二量体化のメカニズムを解明しようとしています.

 インフルエンザウイルスのゲノムにコードされるNS1タンパク質は,数種類のRNA配列と相互作用することが知られていますが,なかでも宿主の核内短鎖RNAの一つであるU6 snRNAとの相互作用は,宿主のRNAのスプライシングを阻害するためと考えられており,ウイルスが増殖するために重要です.このインフルエンザNS1タンパク質とU6 snRNAの部分配列の結合における配列特異性および相互作用様式を原子座標のレベルで解析しようとしています.

 

(2) タンパク質合成系におけるRNAの構造生物学

 大腸菌4.5S RNAはシグナル認識粒子(SRP)のもう一つの構成要素であるFfhタンパク質と複合体を形成し,タンパク質の膜透過過程に関与しています.一方4.5S RNAはタンパク質伸長因子(EF-G)とも結合し,GDP結合型EF-Gがリボソーム上から解離する過程に関与することが最近わかってきました.すなわち1種類のRNAが,異なる2つの重要な過程に関与しているわけです.これらに関与するタンパク質,FfhおよびEF-G,はいずれも4.5S RNAのほぼ同一の領域に結合しますが,結合様式には違いが見られます.そこで,4.5S RNAとこれら二種類のタンパク質との結合様式について明らかにしようとしています.

 不完全なmRNAによってタンパク質生合成が途中でとまってしまったときに,それを解消するために働くトランス・トランスレーションという過程が最近発見されています.この過程には,tmRNAと呼ばれるRNAが関与しており,特徴的な2次構造を持つことがわかってきました.このtmRNAの立体構造を解析し,その機能発現のメカニズムを明らかにしようとしています.

 mRNAスプライシングは遺伝情報の発現のひとつのステップですが,このような重要な反応がRNAの触媒能によって行われていることがわかってきています.そこで,このような反応に関連する人工的なRNA分子についてその立体構造を解析し,活性との関係について明らかにしようとしています.

 

「3.研究の体制等」

期間: 1997年6月〜2002年3月

構成: プロジェクトリーダーに加えて,NMR1名,X線結晶解析1名および生化学1名の計3名のコアメンバーと協力して研究を進めています.

実施場所:千葉工業大学工業化学科物理化学研究室を中心として研究を行っています.